健康ひとくちメモ2 

トランス脂肪酸〜マーガリンは危険?@ 日本脳炎ワクチンを今するべきか 運動と健康@
トランス脂肪酸〜マーガリンは危険?A 甘くみてはいけない夏かぜ 運動と健康A
トランス脂肪酸〜マーガリンは危険?B 胃がん治療の進歩@ 運動と健康B
アルコールの話 胃がん治療の進歩A 日本の医療費かかりすぎ??
高脂血症の話 胃がん治療の進歩B 日本の医療費かかりすぎ??A
痛風(高尿酸血症)の話 甲状腺の病気@ 特定健診・保健指導
ピロリ菌と胃がんの関係@ 甲状腺の病気A 食後高血糖に注意して
ピロリ菌と胃がんの関係A 甲状腺の病気B 誤嚥と肺炎歯磨きなど日常生活で予防を
たばこと慢性閉塞性肺疾患@ 手術した方がよい皮膚腫瘍@ 足底板 足や膝の痛み、指の変形に
たばこと慢性閉塞性肺疾患A 手術した方がよい皮膚腫瘍A ストレッチで捻挫予防
たばこと慢性閉塞性肺疾患B 手術した方がよい皮膚腫瘍B 女性の身体、今・昔特定健診・保健指導
日帰り白内障手術@ 冬に多い皮膚疾患@ 学校検尿で守ろう、こどもの健康特定健診・保健指導
日帰り白内障手術A 冬に多い皮膚疾患A めまいは耳から?
溶連菌感染症について 冬に多い皮膚疾患B 緑内障の近頃
C型肝炎について


◇トランス脂肪酸〜マーガリンは危険?@◇

 昔は「動物性脂肪のバターはコレステロールが多いから、植物性脂肪からできたマーガリンに変えましょう」と勧められたものでした。ところが最近では、マーガリンが心筋梗塞の危険を高めているといわれています。この危険の原因とされている物質がトランス脂肪酸です。
 トランス脂肪酸は、加工油脂に含まれている脂肪酸の1種です。牛などの反芻動物の脂肪には、腸内のバクテリアがつくり出したトランス脂肪酸が微量に含まれています。家庭では不飽和脂肪酸である植物性油を天ぷらなどの調理の時に加熱することで生成されます。マーガリンやショートニングを作るときには、原料である液状の植物性油を固形のマーガリンにするため水素添加を行うのですが、その時にトランス脂肪酸が生成されます。
 このトランス脂肪酸はもともと天然にはほとんど存在しないものであるだけに体内で代謝がされにくく、さまざまな障害の原因となると考えられています。(相楽医師会 小出医院 小出操子)

(京都新聞 2007年1月24日)

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トランス脂肪酸〜マーガリンは危険?A

 トランス脂肪酸の問題点は何でしょうか?動脈硬化の原因となる悪玉コレステロール(LDL)を増加させ、善玉コレステロールを低下させるといわれています。またトランス型の脂肪酸はプロスタグランディンという物質に転換されず、ほかの不飽和脂肪酸がプロスタグランディンへ変換されるのを妨げるといわれています。
 プロスタグランディンは痛み、発熱、炎症、血管の拡張・収縮、血栓生成などさまざまの働きと関係のある大切な物質です。また細胞の表面の細細胞の構成には脂肪酸が必要ですが、この脂肪酸がトランス脂肪酸で形成されると細胞膜が弱くなり、免疫力を低下させ有害物質の侵入に対する抵抗が弱まるとも言われています。そのためにクローン病という腸の病気やアトピー性皮膚炎と関係があると考えている学者もいます。
 WHO(世界保健機関)/FAO(国連食糧農業機関)合同専門家会合の報告では食事からのトランス脂肪酸は最大でも一日の総エネルギー摂取量の1%未満にするように勧告しています。1995年の調査では日本人は一日平均男性で1.2〜6.7g、女性では1.7〜4.1gで摂取エネルギーの0.5〜2.1%に相当しています。加工油脂を多く含む食品(スナック菓子等)をたくさん食べる方は食生活を見直したほうが良いでしょう。(相楽医師会 小出医院 小出操子)

 

(京都新聞 2007年1月31日)

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トランス脂肪酸〜マーガリンは危険?B

 2006年12月に、米国・ニューヨーク市では市内のレストランやファストフード店などに対し、トランス脂肪酸の多い食材の使用禁止を決めました。2年後に完全実施される予定です。
 日本では加工食品表示義務のなかにトランス脂肪酸量はもちろん、総脂肪量・飽和脂肪酸量、コレステロール量も含まれてはいません。現状で私たち日本人がトランス脂肪酸を避けるにはどうすればよいでしょうか?
 下記のようなことが推奨されています。
1:原材料表示のなかに「マーガリン」「ショートニング」とあるものはできるだけ避ける。「植物油」「植物(性)油脂」「加工油脂」と書いてある場合にも、現状ではほとんどがトランス脂肪酸を含むと考えたほうが良いでしょう。
2:ファミリーレストラン・ファストフード店での外食を避け、食べるときでもフライドポテトなど揚げ物を避けましょう。
3:マヨネーズや油脂分の多いメニューを減らしましょう。加熱して使った天ぷら油も古いものは使わないようにしましょう。
4:飽和脂肪酸と、リノール酸(紅花油・コーン油)やαリノレイン酸(亜麻仁油)などの不飽和脂肪酸をバランス良く取ることも大切です。
(相楽医師会 小出医院 小出操子)

 

(京都新聞 2007年2月7日)

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アルコールの話

 「あっ、昨日飲み過ぎたかな?」こんな方のために身体を壊さないためのお酒の飲み方についてお話します。
 お酒は百楽の長と呼ばれる一方、肝臓、膵臓を悪くするのみでなく、身をも滅ぼすもととなります。医学なる学問?のおかげで、日本人がどれほどのお酒を飲むと身を滅ぼすかが分かっています。医学的には、日本酒にして1日3合を5年間飲み続けた人を常習飲酒家、5合を10年間飲み続けた人を大酒家と呼びます。常習飲酒家になると肝機能障害などの身を滅ぼす第一歩が始まります。そして大酒家になるとお酒は絶ちがたい友となり、心配するまでもなく肝臓が悪くなります。まずは常習飲酒家とならないことが第1です。
 肝障害について少し詳しくお話しましょう。アルコール性肝機能障害の最も大きな特徴が、お酒をやめると急速に改善することです。たとえばお酒で肝臓が大きく腫れ上がっても、1日禁酒するとこの腫れは目に見えて改善します。医学の知恵から得たこの特徴を最大限に利用してお酒を飲むことが大切です。このお酒を抜く日を休肝日と呼びます。そこで第2の重要ポイント。1週間に最低1日、できれば2日、休肝日をつくって下さい。
 「私は健康を考えてお酒でなくワインを飲んでいます?」…もう勝手にしてください?(相楽医師会 つじのうえクリニック 辻之上裕之)

 

(京都新聞 2007年2月28日)

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高脂血症の話

 検査で高脂血症と言われた方はいませんか?「病気と言われても痛くもかゆくもありませんが?」その通りです。高脂血症のみでは特に症状はありません。
 では、なぜお金と時間をかけて病院へ行くのでしょうか。そこで、毎日天ぷら油を流し台へそのまま捨てていたら、流し台とその配水管がどうなるかを想像してみてください。半年後にはこってり油がこびり付き、ドロドロになることでしょう。コレステロールは血管内を流れる油のようなもの。この油の濃度が高いために油が血管というパイプにこびり付き、傷んでしまうのが高脂血症です。脳卒中、狭心症、心筋梗塞、血管性認知症などが血管の傷んだ結果です。そして高脂血症を改善し、将来の苦労を少なくしましょうというのが治療の目的です。
 その治療で最も大切なのが、昔から言われている常薬である食事です。コレステロールを多く含む食事をさけるのはもちろん大切ですが、その排泄を促す繊維を十分に摂取することも重要です。これは実際上、畑の作物を調理して摂取することで達成されます。次に大切なのは運動です。そしてこれらで治療効果が不十分な時、病院の薬の助けを借りることになります。高脂血症改善薬による治療の結果、心筋梗塞の発症率が低下するのみならず寿命まで延びます。一度、健康診断など結果があれば見直してみて下さい。(相楽医師会 つじのうえクリニック 辻之上裕之)

 

(京都新聞 2007年3月7日)

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痛風(高尿酸血症)の話

 紀元前5世紀にヒポクラテスが痛風にはコルヒチンが特効薬であると記載しているほど古くから知られていた病気です。一方、日本では明治時代に来日したベルツ医師が、日本には痛風がないと言われたと伝えられており、贅沢病とも言われ、万病の病気ではありませんでした。
 ところが高尿酸血症を認めた人の割合は、1960年代には約10%であったのに対し、最近は約20%の人に認められるようになり、明らかに戦後から急速に増えています。昔は50歳代に発症ピークがみられましたが、近年は30歳代発症の患者が最も多く、若年化もしてきています。
 変化の原因としてストレス、生活習慣、食生活が考えられています。医学研究で明らかな例をあげますと、体重を減らすと尿酸値は低下しますし、増えると上昇します。肉類、魚介類は痛風を起こす確立を高くします。一方、野菜や乳製品は痛風のリスクを下げるという結果が得られています。
 有名な医学雑誌に掲載された論文ではビールを飲酒すると痛風になる確率が上昇し、ワインを飲むとその確立は下がる(ただし1日200ml程度まで)という結果が発表されています。アルコールが好きな痛風患者のドクターが研究したのか否かは定かではありませんが、あなたもこの医師が研究努力をしたように、生活習慣、食生活を一度見直してみませんか?(相楽医師会 つじのうえクリニック 辻之上裕之)

 

(京都新聞 2007年3月14日)

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ピロリ菌と胃がんの関係@

 一昨年のノーベル生理学・医学賞は、胃の中にヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)を1982年に発見した学者に授与されました。それまで胃の中は強酸で最近が住み着かないと考えられていましたが、ピロリ菌は巧みに胃酸を中和し胃に住み着いていたのです。この発見をした学者は自らピロリ菌を飲んで急性胃炎になった体験をもとに胃炎の原因菌と唱えました。
 その後の研究で、ピロリ菌が胃・十二指腸潰瘍の主要な原因のひとつであることがわかりました。さらに、胃がん発生との強い因果関係もわかってきています。ピロリ菌が胃に入ると急性の胃炎を生じ、長い年月をかけ胃粘膜に委縮や腸上皮化生(胃の粘膜が腸粘膜に似た状態に変化)を起こし、いわゆる慢性胃炎である委縮性胃炎になります。この状態は胃がんを発生しやすいと考えられています。
 また、ピロリ菌感染者と非感染者約1500人に対して定期的に内視鏡検査をした研究があります。ピロリ菌感染者では8年間で3%胃がんが発生し、非感染者からは胃がんは発生しませんでした。別の報告では胃がんを内視鏡で切除した後にピロリ菌を除菌すると、胃がんが再び発生するのを顕著に減らせることがわかっています。基礎的な研究でもピロリ菌感染者によりがん抑生遺伝子の異常が増加するなど、いくつかのピロリ菌と発がんの証拠が示されています。(相楽医師会 平田内科医院 平田真人)

 

(京都新聞 2007年4月4日)

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ピロリ菌と胃がんの関係A

 ピロリ菌の持続感染が胃がんの主な原因であることがかなり明確になっており、その除菌で胃がんの発生を減らすことが期待されています。除菌療法は2種類の抗生物質と1種類の胃酸分泌を抑制する薬を7日間内服します。萎縮性胃炎がある方やピロリ菌感染が分かっており胃がんの家族歴のある方はかかりつけ医の先生に除菌の効果について相談されると良いでしょう。
 除菌は胃の萎縮の軽いうちに行うのが効果的です。ただ、現在のところ、除菌に際して問題点がいくつかあります。一つは、ピロリ菌の除菌療法は胃・十二指腸潰瘍と一部の胃にできるリンパ腫に対して健康保険が使えますが、胃がんの予防のためには摘要されていません。健康保険が使えず治療費用が高額になってしまいます。
 次に副作用の問題です。使用する抗生物質のアレルギーのある方や起こす恐れのある方は除菌治療ができません。また治療の途中、激しい下痢や腹痛、発熱、血便などの副作用がでる場合があります。
 抗生物質が菌に効かずに除菌に失敗することもあります。除菌の成功率は約80%です。ピロリ菌の除菌により発がんの可能性は抑えることが期待できますが、完全に予防できるわけではありません。職場や地域の定期健診をきちんと受けてください。特に萎縮性胃炎のある方は除菌後も定期的に胃の内視鏡検査を受け早期発見に努めてください。(相楽医師会 平田内科医院 平田真人)

 

(京都新聞 2007年4月11日)

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たばこと慢性閉塞性肺疾患@

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)とは、慢性の咳、痰、呼吸困難感を主症状として中年以降に発症する経過の長い予後不良の病気です(約8年で50%の方が死亡されます)。現在のところたばこが最大の原因であると考えられていて、大気汚染・室内有機燃料煙も危険因子かと考えられています。これらの有毒ガス・粒子により炎症がおこり、進行性の気流障害を呈する病気です。
 わが国では年間1万4000人程度の方がCOPDで死亡されていて、死因の第10位となっています(ちなみに、肺がんでは6万人が亡くなられています)。アメリカでは死因の第4位を占めるようになってきており、いずれ日本でも死因のさらに上位になってゆくものと推定されています。
 たばこを吸う人の中で10〜20%の人がCOPDになると考えられています。しかし、たばこを吸う人のうちどのような体質を持つ人がCOPDになるのかについては、現時点ではまだはっきりとは解明されていません。
 日本の喫煙者数は男性が成人喫煙率43%、女性が12%(2004年厚生労働省国民健康・栄養調査)で計約3000万人で、COPDの方は530万人程度と推定されています。この中で実際に医療を受けておられる人は約22万人で、多くのCOPDの方は正確な診断を受けておられないのが現状です。(相楽医師会 小沢医院 小沢勝)

 

(京都新聞 2007年5月2日)

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たばこと慢性閉塞性肺疾患A

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の診断には、呼吸機能テストが必要です。これはできる限り大きく息を吸いこみ、今度は最大限の努力をしてがんばって息を吐き切ることによって気流障害を診断する検査です。もとはパイロットの適性をみるために行われていた検査で、被験者の呼吸努力を要します。
 手軽な装置も開発されているものの、病院の検査室で施行されることが多く、どの診療所にもある心電計のようには普及しておらず、医師が手軽にできる検査にはまだなっていません。このため慢性の咳、痰、息切れといった症状があっても正確にCOPDと診断できていない場合が多いようです。COPDの重症度の診断にも呼吸機能テストが必要で、1秒間に吐き出せる息の量によって重症度が決定できます。
 さてCOPDの治療としては禁煙が最も重要です。わが国はたばこ自販機が63万台、たばこ販売許可店は31万店もある喫煙者天国で、たばこが嗜好品という考えが最近まで一般的でした。しかし2003(平成15)年に施行された健康増進法により受動喫煙の害が広く認知されるようになり、喫煙区域が拡大してきています。
 たはこはほんの1ヶ月ほど喫煙しただけでニコチン依存が形成されることも知られてきて、今までは自費だった禁煙治療が、2006(平成18)年より条件を満たせば保険適用となりました。 (相楽医師会小沢医院 小沢勝 )

 

(京都新聞 2007年5月9日)

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たばこと慢性閉塞性肺疾患B

 慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療方法には、禁煙以外に気管支拡張剤(抗コリン薬、β刺激薬、テオフィリン製剤)、リハビリテーション、栄養管理(COPDでは体重減少をきたす場合が多い)、インフルエンザワクチン接種などがあげられます。また低酸素血症が進行すると酸素療法が必要となります。わが国の全住宅酸素療法者15万人のうち48%がCOPDによる施工者です。ちなみに在宅酸素療法はひと月に約8万円の医療費が必要です。
 COPDの方は何でもないような感冒等で急激に症状の悪化(急性増悪)をきたすことがあり、こういった時には人工呼吸等を含めた入院治療が必要となる場合も多いです。医療費もかさむ上に死亡されるケースも生じます。
 無駄な医療費を使わないためにも、COPDの一次予防にはたばこを吸わないことが最善の策となるため、未成年者に対する防煙教育や、学校の敷地内禁煙化を進める必要があります。
 未成年者の喫煙開始にはたばこの価格が重要なかぎを握っていると考えられていて、たばこ税を増税してたばこ高価格化政策を進めてゆくことも大切です。
 COPDの二次予防としては、中高年の喫煙者の定期的に呼吸機能検査を受けていただくことが推奨されます。そしてCOPDの進行を阻止する唯一の治療法である禁煙をサポートする必要があります。(相楽医師会小沢医院 小沢勝 )

 

(京都新聞 2007年5月16日)

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日帰り白内障手術@

 「目の手術なんて怖くてとんでもない」。そう思うのは誰でも当然のことでしょう。しかしお年をとると、目はかすんで見にくいし、外へ出るとまぶしくてうっとうしい、という方はよくいらっしゃいます。そんな場合は白内障が進行している可能性があります。
 白内障とは、目の中にある水晶体(カメラで例えるとレンズ)というところが曇りガラスのように濁ってくることで、そのほとんどは老化によるものです。つまりお年をとられると誰でもなるものなのですが、目薬をさしたり飲み薬を飲んで治るものではないため、生活に不自由を感じるようになると手術的に濁りをとることを考えることになります。
 白内障手術は約20年前からめざましく進歩し、手術件数は年々増加しています。最近では国内だけでも年間80〜90万件の白内障手術が行われています。手術の合併症なども激減し、入院せずに日帰り通院で行われる場合も多くなりました。
 白内障手術の進歩は次の二つが主な要因です。一つは超音波による水晶体の乳化吸引という方法です。もう一つは折りたたみ式眼内レンズを挿入することです。これらの技術で、それまでは11〜12ミリだった手術の傷口を約3ミリと小さくすることが可能となりました。また、眼球が膨らむ力で傷口が自然に閉鎖するため傷口を縫う必要もなくなり、手術時間は10〜15分となりました。(相楽医師会 桜井眼科 桜井一郎)

 

(京都新聞 2007年6月6日)

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日帰り白内障手術A

 「目の手術って痛いことないですか?」白内障手術を受けられる方が一番心配に思うことでしょう。
 手術は目の部分だけ局所麻酔をして行いますが、最近の白内障手術は傷口も小さくなり手術時間も10〜15分ぐらいと短時間になったため痛みはほとんどありません。痛み止めの目薬だけで手術をすることもありますし、少しだけ痛み止めを注射して行います。
 黒目の上を約3ミリ切開し超音波の出る針を挿入して水晶体を乳化吸収します。水晶体はもともとカメラのレンズの役割をしていますので、摘出した代わりにレンズは一度入れれば一生使えるので、何年かたって入れ替えたりする必要はありません。近視、遠視の方もこの人工の眼内レンズで矯正ができますので、もともと眼鏡をかけていた人も手術後は眼鏡をかけなくても見やすくなることもよくあります。ただし遠近の調節をする力はなく、いわゆる老眼と同じ状態ですので、新聞を読んだりする際には眼鏡が必要となる場合もよくあります。
 手術後も痛みはほとんどなく、30分〜1時間ほど休んで帰宅します。通常1日だけ眼帯を貼っておきます。翌日からは抗菌剤や炎症止めの目薬を点眼します。ごくまれに感染を起こすことなどもあるため、目薬はしばらく続ける必要があります。1週間もすれば通常のお仕事をすることも可能です。(相楽医師会 桜井眼科 桜井一郎)

 

(京都新聞 2007年6月13日)

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溶連菌感染症について

 夏かぜやインフルエンザの流行の合間をぬって、熱やのどの痛みで来られる子供が増えることがあります。「つばを飲み込むのも痛い」という訴えから溶連菌感染症を疑います。
 溶連菌とは正式には溶血性連鎖球菌と呼ばれる細菌で、のどが出血したみたいに真っ赤になり、発熱や発疹を伴う感染症を引き起こします。イチゴのような舌になったり、体や手足に細かい発疹が見られたり、嘔吐したりすることもあります。のどの検査で迅速診断することができます。
 風邪の多くはウイルスが原因なので抗生剤は効きませんが、溶連菌は細菌なので抗生剤がよく効きます。検査で溶連菌がいることが証明されれば、抗生剤を10日ほど飲んで菌をしっかりやっつけなければなりません。1、2日で熱は下がり、のどの痛みもましになりますが、途中で薬をやめると再発します。昔は溶連菌が原因で急性腎炎やリウマチ熱がみられましたが、最近では診断や抗生剤の普及により、みられなくなりました。
 また、兄弟や家族にうつりやすいので、家族の1人が溶連菌にかかった場合、兄弟を中心に家族も同時に予防内服や治療することで家族内感染を防ぎます。抗生剤を服用している間は熱が下がって、やめると2,3日でまた熱が出るという経過は溶連菌感染症かもしれません。ご注意を!(相楽医師会 やました小児科医院 山下隆司)

 

(京都新聞 2007年7月11日)

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日本脳炎ワクチンを今するべきか

 最近、「日本脳炎のワクチンはした方がいいですか?」とよく聞かれます。そもそもワクチンはメリットである予防効果とデメリットである副反応などを比較して、するかどうかを決定します。
 日本脳炎ウイルスはコガタアカイエカを主な媒介動物とし、増殖動物は主にブタです。毎年各都道府県のブタの抗体検査からウイルスは西日本中心に広く存在が予想されます。日本脳炎の発生届け出数は1950年代には5000例を超え、1960年代に数百万人となり、1970年代以降は数十人まで低下、その後減少し、2003年は1例、2004年は5例となっています。これはワクチンの普及と環境の変化が影響していると思われます。
 国外では中国、東南アジアなどで流行している地域があり、発症すると死亡例(約30%の致命率)や後遺症も多く、ワクチン接種が推奨されます。しかし、ワクチンは副反応のため国の事業としては現在ストップしており、各市町村で希望者に対応しているのが現状です。一方、重大な副反応としては、ショックや急性散在性脳脊髄症があり、100万接種に1例以下と言われています。副反応を軽減した新しいワクチンを持ったほうがいいのか、現行のワクチンをしたほうがいいのかの質問の電話が多く、悩ましい問題です。(相楽医師会 やました小児科医院 山下隆司)

 

(京都新聞 2007年7月18日)

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甘くみてはいけない夏かぜ

 最近は病気の方も季節性がなくなった感があり、夏かぜは春からみられ、冬に夏かぜというと笑われますが、実際冬にも存在します。突然の高熱で発症し、「かぜの症状がなかったのに」とびっくりして来院される方もあります。
 夏かぜはおもに腸管で増えるエンテロウイルスが原因でその種類は数多くあり、年によって流行の型が異なります。ヘルパンギーナ、手足口病、咽頭結膜熱など特徴的な症状を呈し、診断に困らない場合もありますが、あまり特徴のない発熱、発疹、腹痛、下痢などの症状のみのこともあり、すぐには診断がつかないこともあります。
 通常乳幼児にみられ、予後良好な疾患と考えられており、安静、水分補給、栄養補給など対症療法で自然治癒していきます(ヘルパンギーナ、手足口病では、口内炎のため水分補給、栄養補給が困難になります)。
 しかし、新生児や乳児など抵抗力のない子どもでは肝炎、心筋炎、髄膜炎など重篤になる場合があり、軽視することは禁物です。熱があっても真っ赤な顔で機嫌もよく、栄養も少しずつ摂れていれば心配ないですが、吐いたり、顔色が悪かったり、なんとなく元気のないときは、一度小児科で診てもらって下さい。(相楽医師会 やました小児科医院 山下隆司)

 

(京都新聞 2007年7月25日)

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胃がん治療の進歩

 胃癌は日本人に最も多い癌の一つですが、検診の発達などにより、その50%以上が早期(胃の表層、つまり粘膜と粘膜下層に限局した)癌として見つかり、早期癌では95%以上で転移がないとされます。
 一方で、胃内視鏡(胃カメラ)の技術もどんどん進歩し、現在では内視鏡を使って胃の粘膜にある小さな癌ならとってしまうこと(内視鏡的粘膜切除術:EMR)ができるようになっています。この治療法は転移のない早期胃癌に行われ、最大の利点は開腹手術と異なり胃が全部残せるということです。EMR後は一時的に潰瘍を形成しますが、次第に粘膜が再生され、ほとんど元のとおりになります。
 さらに最近注目を集めている方法に、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)というのがあります。これは、内視鏡の先端から出した切開・剥離用の器具(ITナイフ、フックナイフ、フレックスナイフなど)を使って、まず病変の全周を切り開き、さらに粘膜下層ごと病変をはがしとる技術です。ESDは前述のEMRと比べ、より大きな病変を1回の切除で(ひとかたまりに)とりきれる、潰瘍成分が含まれていてもそれを切開剥離できる、という点が大きな特徴です。日本では早期胃癌に対するESDは2006(平成18)年4月より保険がきくようになり、今後ますます増えていくものと思われます。(相楽医師会 山口医院 山口泰司)

 

(京都新聞 2007年8月22日)

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胃がん治療の進歩A

 早期胃癌のうちリンパ節転移の可能性のないものは内視鏡(胃カメラ)で治療が行われますが、それが不可能な場合や進行期胃癌に対しては外科的手術が検討されます。
 胃を切除する範囲は、胃癌の部位と進行度によって決められます。胃の出口に近い部位(幽門部)にだけ病巣がある場合は、胃の出口の3分の2を切除する幽門側胃切除を行います。病巣が胃の入り口に近い部位(噴門部)にのみある場合や広範囲にある場合は胃を全て切除する胃全摘術が原則となります。噴門部に限局した浅い早期癌の中で内視鏡治療ができないものには、胃の入り口の約半分を切除する方法がとられます。また癌病変から胃周囲のリンパ管にに入った癌細胞は、途中にあるリンパ節という関所に入りリンパ節転移を起こすので、手術時には予防的にそれらのリンパ節もとります(このことを「リンパ節郭清」といいます)。
 外科的手術では開腹手術(お腹を切り開いて行う手術)が基本ですが、最近は病変の条件が合えば腹腔鏡下手術(お腹の表面から胃カメラに似た内視鏡を入れて行う手術)も検討されており、術後の回復が早くお腹の傷も小さくてすむ利点があります。胃を半分以上切除した場合、一度にたくさん食べることは困難になるかもしれませんが、1日の食事を4〜6回に分けるなどして上手に社会生活を送っている方も大勢おられます。(相楽医師会 山口医院 山口泰司)

 

(京都新聞 2007年8月29日)

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胃がん治療の進歩B

 胃癌の治療において最善の方法は癌を切除することですが、病気の進行度や患者さんの体力の問題で切除に踏み切れないこともあります。手術が不可能な進行胃癌や再発例には化学療法、つまり飲み薬や点滴注射などの抗癌剤による治療が検討されます。
 抗癌剤といえば副作用に苦しむというイメージが先行しますが、使う抗癌剤の種類や量、組み合わせによって副作用の種類や頻度もさまざまです。胃癌に使用する抗癌剤の副作用で多いのは、吐き気や骨髄抑制(血液細胞を産生する骨髄の働きが低下する)などですが、近年、そのような吐き気を抑える薬や骨髄機能を回復させる薬もあらわれました。
 また、胃癌化学療法はここ数年に大きく進歩し、余命を改善する効果も向上してきました。化学療法の内容は、抗癌剤投与を数日から数週間おこない次の数週間は休薬する、というパターンを何度か繰り返すメニューが主流です。そのパターンの合間に内視鏡やCT検査をして化学療法の効果を評価し、副作用の内容も考慮して、さらに同じメニューを続けるべきかどうかが検討されます。抗癌剤は慎重に使われるべきですが、もっとも重要なのは「癌に負けたくない」という患者さんの意志やご家族の応援です。化学療法については先入観のみで判断せずに医師とよく相談して方針を決めるべきでしょう。(相楽医師会 山口医院 山口泰司)

 

(京都新聞 2007年9月5日)

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甲状腺の病気@

 「人間ドッグで甲状腺と言われました」と患者さんが受診に来られます。「甲状腺がどう悪いと言われたのですか」と聞いても、「だから甲状腺なのですよ」と要領を得ません。甲状腺というのは、肝臓や心臓と同じで身体の場所の名前です。肝臓には肝炎だって、肝臓がんだってあるでしょ、と説明して初めて分かってもらえるようです。
 甲状腺は、肝臓や心臓などと違って馴染みの薄い臓器のようです。甲状腺は"のどぼとけ≠フ少し下にあって蝶が羽を広げた形をしています。小さくて軟らかいため、正常では外から触れません。しかし甲状腺の病気では、甲状腺は大きくなったり硬くなったりします。甲状腺が大きくなって、外から触れるために健康診断で発見されるのです。甲状腺では身体の成長や新陳代謝を調整するために不可欠な甲状腺ホルモンが作られています。
 甲状腺の病気では甲状腺ホルモンが変化する病気と、甲状腺に腫瘍ができる病気があります。甲状腺ホルモンが多くなる病気の代表がバセドウ病、不足する病気の代表が慢性甲状腺炎(橋本病)です。甲状腺に腫瘍のできる病気の代表が甲状腺腺腫と甲状腺癌です。ですが、バセドウ病でもホルモンが多くなるとは限りません。慢性甲状腺炎や甲状腺腫瘍でホルモンが多くなることもあります。甲状腺ホルモンが多くなっていても、症状のないこともあります。一筋縄ではいかないものが甲状腺の病気です。(相楽医師会 飯田医院 飯田泰啓)

 

(京都新聞 2007年9月26日)

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甲状腺の病気A

 少し動くと心臓が躍る。寝ていても心臓がドキドキして眠れない。このような症状を心悸亢進と呼びます。甲状腺ホルモンがたくさん分泌されるバセドウ病では、このように心臓が速く、強く、打つようになります。普通の人の脈は1分間に60回ほどですが、バセドウ病ではほとんどの患者さんで90回以上です。このような早い脈を頻脈と呼び、バセドウ病の特徴です。バセドウ病では運動や精神的な影響が大きく、医療機関を受診された時にはさらに脈拍は速くなるようです。
 また不整脈といっても心臓が規則正しく打たないこともあります。先代のブッシュ米国大統領も心房細動という不整脈でジョギング中に呼吸困難になりましたが、バセドウ病が原因でした。心臓の症状が激しい時には心臓病として治療されていることがあります。もちろんバセドウ病の治療をすれば、心臓の状態もよくなります。しかし治療せずに長い間放置すると、本当に心臓が悪くなりバセドウ病が治っても回復しないので注意が必要です。
 バセドウ病は、頻脈以外にも、疲れやすい、汗が多い、手が震える、よく食べるのにやせる、暑さに弱い、筋力が低下した、落ち着きがないなど甲状腺ホルモンが過剰になるための症状と、眼球突出などの眼の症状が特徴と言えます。女性では、200から300人に1人(男女比は1:4〜5)でバセドウ病が見つかります。意外に多い疾患ですが、案外知られていないものもバセドウ病です。(相楽医師会 飯田医院 飯田泰啓)

 

(京都新聞 2007年10月3日)

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甲状腺の病気B

 身体がとてもだるい。何をするにも気力がなくなった。起きたときに腫れぼったい。寒がりになって困る。いつも眠くって。物忘れがひどくなった。肌がガサガサになってきた。このような症状は誰もが経験するものです。しかし、甲状腺機能低下症でも、このような症状がおこります。
 多くの甲状腺機能低下症の患者さんは甲状腺腫が目立たないので、貧血症、更年期障害、うつ病、心臓病、腎臓病などと診断されていることがあります。認知症(物忘れ)の原因が甲状腺機能低下症のこともあります。甲状腺機能低下症を治療すると認知機能が改善する可能性があるので、治療可能な認知症といえます。甲状腺ホルモンの感受性は人によってさまざまです。かなり不足していても平気な方もおられます。わずかな甲状腺機能低下の方にホルモンを補うことで症状が劇的によくなられることもあります。
 このような甲状腺機能低下症を引き起こす疾患の代表格が慢性甲状腺炎(橋本病)です。この病気は大正元年に九州大学の橋本策博士が発見し、日本人の名前がついた数少ない疾患として世界的に有名です。橋本博士は三重県伊賀上野の出身です。
 橋本病は女性に多い病気で成人女性の20〜30人に1人の頻度でみられます。男性では女性に比べて約20分の1程度です。橋本病は非常に多い疾患と言えます。しかし、甲状腺機能異常となるのは、そのうちのごく一部の方だけです。(相楽医師会 飯田医院 飯田泰啓)

 

(京都新聞 2007年10月10日)

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手術した方が良い皮膚腫瘍@

  日常の診療でよく見かける皮膚腫瘍にアテローム(粉瘤)があります。半球状に盛り上がり、コロコロとして硬いこともあり、ブヨブヨしていかにも中に何か溜まっていそうな塊を皮下に触れることがあります。真ん中に黒点があり、絞るとそこから、白いものが出てくることがあります。
 よくできる場所は、背中、首の後ろ、顔、耳です。「出物はれ物ところかまわず」といいますが、できてほしくない場所、お尻や外陰部にもできます。皮膚の表皮が真皮内に入り込み、袋状になり内容物が蓄積し、袋がどんどん大きくなります。場所によっては放置しておくと、鶏卵大くらいの大きさになることもあります。
 自然につぶれて臭いオカラのような粥状物でてくることもあります。感染をおこすと、急に大きくなり、赤く腫れて痛みます。炎症が強い時は切開して膿を出し、炎症がおさまるのを待ってから手術をします。大きいものや、何度も炎症を繰り返しているものは、それだけ手術に時間がかかり難しくなります。手術で、皮膚の一部を含めた袋状の膿腫の塊を摘出します。良性の腫瘍ですが、まれに癌化することもありますので早めに手術を受けたほうがよいでしょう。(相楽医師会 山本耳鼻科・形成外科 山本ゆき子)

(京都新聞 2007年10月31日)

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手術した方が良い皮膚腫瘍A

  色素性母斑のいわゆるホクロ(黒子)についてお話します。人相学的に、取らない方がいいというホクロがあるらしく、「このホクロは取りますが、これは取らないでください」「このホクロを取ると人生変わりますか」という人がおられます。全くおかしな話ですが、人生は変わるものです。ホクロでは変わりません。
 取らなければいけないホクロというのは、悪性の疑いのあるものです。最近の大きくなったもの、血が出るもの、盛り上がってきたもの、形がいびつなもの、色の濃淡があるものは、悪性の疑いがあります。  摘出したホクロは、組織検査で良性か悪性かを調べます。ホクロを気にして、自分で引っぱったりちぎったりしていると、だんだんと大きくなります剃刀やくしで傷つけて、いつも血が出ているホクロは要注意です。
 8ミリ以内のものでしたら、レーザーで簡単に取れます。ホクロの近くに局所麻酔をしたあとレーザーで切除します。しばらくは切除したあとのへこんだ状態が続きますが、1ヶ月から半年くらいで、赤みや硬さが引いてやがてへこみも目立たなくなります。大きいものや場所によっては、少し時間はかかりますが、切り取って縫う方が、きれいに仕上がります。また、悪性が強く疑われる時は、ホクロの周囲の皮膚まで含めて大きく取る必要があります。(相楽医師会 山本耳鼻科・形成外科 山本ゆき子)

(京都新聞 2007年11月7日)
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手術した方が良い皮膚腫瘍B

  シリーズの最後に、日常よくみられ、美容的見地からできれば取った方が好ましいと思われる、顔にできる腫瘍についていくつかお話します。
 加齢とともに増える、茶色くやや盛り上がったシミ状イボ状のものは、脂漏性角化症といわれます。まれに悪性のものもあるのでご注意が必要ですが、レーザーで取ることができます。
 やや硬い白い粒状のものは稗粒腫です。子どもや若い女性にもよくみられますが、中高年にも多発します。中の白い芯を出してやると取れます。
 中高年の特にあごから首にかけて多発する、皮膚の色をした柔らかい細かいイボ状ものは、軟性線維腫といわれ簡単に取れます。
 汗管腫は、中年の女性の下まぶたに多発するやや硬めの小さい粒々です。数が少ないうちは切除しやすいですが、数が増え癒合してくると、難しくなります。
 コレステロールの高い人に、黄色腫(キサントーマ)という黄色い盛り上がりが上まぶたにみられることがありますが、手術で摘出できます。
 尋常性疣贅は、ウイルス性のイボですので、数が増えないうちに処置を受けることをおすすめします。(相楽医師会 山本耳鼻科・形成外科 山本ゆき子)

(京都新聞 2007年11月14日)

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冬に多い皮膚疾患@

  皮膚の一番外側は角層と呼ばれるバリアーで覆われ、皮膚の水分が逃げない仕組みになっています。しかし、角層に含まれるセラミドや毛穴から分泌される皮脂が減少すると、角層が壊れて皮膚の水分が失われるため肌はカサカサ(乾燥肌)になってきます。
 アトピー体質の人は、生まれつきセラミドが少ないため角層がはがれやすい特徴を持っていますし、年を取ると誰でも皮脂の分泌量が減って皮膚が乾燥しやすくなります。そのため、乾燥肌は乳幼児と50代以降の大人によくみられます。入浴時に石けんで体を洗いすぎたり、洗剤を使って水仕事をよくする場合にも角層がはがれてしまいます。屋外でも冬の冷たい空気にさらされることも乾燥肌の原因となります。
 乾燥肌は色々な皮膚病を起こします。顔の皮膚が粉を吹いたようにカサカサするはたけ(粃糠疹)、ひどくなるとひび割れができて痛い手荒れ(主婦湿疹・進行性指掌角皮症)、膝下や腰回りなどの皮膚が鱗のようにかさついてくる皮脂欠乏性湿疹などはすべて乾燥によるものです。皮膚がかさついているだけなら保湿剤の塗り薬で十分ですが、赤い発疹が出てきた場合は保湿剤と一緒にステロイド外用剤を塗る必要があります。熱めのお湯に長時間入るとかゆみが強くなり、皮脂を奪うことにもなります。また、お風呂で体を洗うときにも、ナイロンタオルで強くこするのも控えた方がよいでしょう。(相楽医師会 松吉皮膚科 松吉徳久)

(京都新聞 2008年1月9日)

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冬に多い皮膚疾患A

  紫外線というと日焼けを起こしたり、皮膚がんになるといった悪いイメージを持つ人が多いかもしれません。確かに紫外線には毒性もあります。また、従来の紫外線治療は日焼けしたり、効果が不十分であったりといった問題点のため、徐々に使われなくなってきていました。最近、新しい紫外線の治療法がいくつか開発され、再び脚光を浴びるようになってきています。
 紫外線は波長の長さによりUVA、UVB、UVCの3種類に分けられますが、UVBの中でほとんど日焼けを起こさず、皮膚病に高い効果を示すナローバンドUVBと呼ばれる紫外線を発生する装置が開発されました。このナローバンドUVBは、皮膚でアレルギー反応や免疫反応を起こすリンパ球を殺すだけでなく、痒みを起こす神経自体を抑えることがわかっています。また、昔から紫外線治療がよく行われていた尋常性乾癬や掌蹠膿疱症だけでなく、今まであまり使われていなかったアトピー性皮膚炎や尋常性白斑にも効果があります。ステロイドの塗り薬が中心だったこれらの皮膚病に対し、紫外線療法を併用することでステロイドの使用量を減らすことができます。
 治療は週に、1.2回、5-10分程度行うのが普通です。治療に痛みなどの不快感はなく、保険適応があります。ナローバンドUVBの治療が行えるかはお近くの皮膚科でご相談ください。(相楽医師会 松吉皮膚科 松吉徳久)

(京都新聞 2008年1月16日)

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冬に多い皮膚疾患B

  足の親指の爪が皮膚に食い込むと痛くて歩けません。その原因は、ほとんどの場合は爪の切りすぎによる陥入爪です。足の親指の爪を切る場合は、爪の横の部分を切りすぎないようにしてください。少し痛いと思って、その部分を切りすぎてしまうと、爪が伸びる時に皮膚に食い込んで余計に痛くなったり、赤い肉(血管拡張性肉芽腫と呼びます)が盛り上げってきたりします。このような場合は、爪の先が皮膚に食い込むのを防ぐために、シリコンのチューブや綿花を爪の下に入れたり、アクリル樹脂で人工爪を作ります。すでに爪が皮膚に食い込んで、赤い肉が盛り上がっている場合は液体窒素や電気メスなどで治療します。
 陥入爪の原因は爪の切りすぎと書きましたが、もともと巻き爪のある場合によく起こります。巻き爪は爪が湾曲して「逆Uの字」のような形に変形した状態で、長年にわたる圧迫で生じます。巻き爪の治療は、以前は手術(爪の根元をフェノールで焼いたり、切り取る方法)が主体でしたが、最近では超弾性ワイヤを用いる治療がよく行われています。爪の先端に穴を開けて、超弾性ワイヤを入れるだけですので治療時間は10分程度で終わります。また、爪に金属製のフックを懸けて爪の湾曲を治すVHO式という方法もあります。両方とも麻酔の必要はないので治療に伴う痛みはありません。残念ながら保険適応はありません。(相楽医師会 松吉皮膚科 松吉徳久)

(京都新聞 2008年1月23日)

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運動と健康@

  食生活の欧米化、交通手段の発達など、現代の生活スタイルと関係して、生活習慣病が問題になっています。現代人は知らないうちに運動不足とエネルギー摂取過多になっています。このような生活スタイルは虚血性心疾患(狭心症。心筋梗塞など)や脳血管障害(脳梗塞など)のおおきな原因です。運動は高脂血症、高血圧症、糖尿病、肥満症などを改善するだけでなく、ストレス解消効果などの心の健康にも役立つことが知られています。
 しかし運動には良い効果だけでなく危険な面があることを忘れてはなりません。運動中の突然死は時々マスメディアの話題になります。運動中に心臓発作を起こす危険性は、海外の報告では非運動時に」比べ4〜12倍も高まるとされます。とりわけ中高年では老化による身体機能の退化、長年の運動不足、悪習慣の積み重ねが身体のどこかに異常をきたしているかも分かりません。それを知らずに急激な運動を始めると、身体に良いはずの運動がかえって身体の障害を生む可能性があります。
 心身の状況は各人でさまざまです。スポーツを始める時は運動の目的や自分の年歳、体調を考え、自分に適した運動を始めること、運動で悪化する病気や身体の異常がないかなどのメディカルチェックは必要です。運動がかえって心の負担になることもあります。目的を持って自分に適した運動を生活に取り入れて健康を保ってください。(相楽医師会 飯田医院 飯田泰啓)

(京都新聞 2008年2月13日)

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運動と健康A

 ひとくちに運動と言ってもいろいろな種類があります。運動は有酸素運動(エアロビクス)と無酸素運動(アネロビクス)に大きく分けられます。
 無酸素運動は跳躍、砲丸投げ、100bのような短時間に強い筋力を使い、酸素を取り込まずに行われるので「無酸素運動」と呼ばれます。筋肉を鍛え、基礎代謝を高めるという長所がありますが、高齢者や高血圧などの疾患のある方には適しません。
 有酸素運動は、筋肉に充分に酸素が供給された状態での運動を言います。充分に取り込んだ酸素を使って、体内の糖質や脂肪をエネルギー源として燃焼し、効率よくエネルギーを生み出します。乳酸の産生を伴いませんので疲れが蓄積せず、長時間運動を続けることが可能です。呼吸で酸素を多く取り込みながら行う有酸素運動は脂肪を消費でき、生活習慣病の予防や治療に有効です。代表的なものにウォーキング、ジョギング、水泳、水中ウォーキング、サイクリングなどがあります。激しく運動した場合は無酸素運動にもなるので気をつける必要があります。
 中でも中高年の健康保持増進のためには「いつでも、どこでも、一人でも」という意味でウォーキングはやりやすく、続けやすく経済的で、競争心を起こすことなく自分のペースを守れる運動といえます。汗をかくかかない程度でいつまでも続けられるスピードで楽しく歩くことが大切です。(相楽医師会 飯田医院 飯田泰啓)

(京都新聞 2008年2月20日)

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運動と健康B

 これまで運動をしてこなかった人が、いきなり目標とする強度や量の運動を行うといろいろな障害を起こします。各人の年齢や体力、病気などに応じて軽い運動から始め、体力の向上に合わせて、徐々に運動の強さや量を増やしていくようにします。
 そして運動の前後には必ずウォーミングアップ(準備運動)とクーリングダウン(整理運動)をするようにします。ウォーミングアップは心拍数を高め、筋肉の温度を上昇させることで身体的心理的に運動への準備状態をつくります。運動中の障害を予防して運動の効率を高めます。クーリングダウンは運動後に起こる筋肉痛など障害の防止に有効です。心身の興奮を沈静化し、筋肉中の疲労物質を取り除き、運動による疲労を早く回復させます。
 ウォーミングアップやクーリングダウンではストレッチングを取り入れることも大切です。文字通り筋や腱を引き伸ばすことです。関節の可動域が大きくなって体が柔軟になり、血液循環が促進され、運動障害の防止や疲労回復に役立ちます。弾みをつけずにゆっくりと筋や腱を伸展させ、一定時間保持する静的ストレッチングが勧められます。反動をつけて大きな力で筋や腱を伸ばすことはかえって危険です。
 ストレッチングは、いまや健康づくりのための体操としても注目されています。腰痛や肩凝りにも、予防と回復に極めて効果的な体操と言えます。(相楽医師会 飯田医院 飯田泰啓)

(京都新聞 2008年2月27日)

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日本の医療費かかりすぎ??

 欧州、北米、メキシコ、オーストラリア、日本、韓国など30カ国が加盟する経済開発協力機構(OECD)が昨年7月に各国の医療報告をまとめました。費用の国際比較は国内総生産(GDP)に占める割合が用いられます。
 日本の総医療費はGDP比で8%でした。これは米国15.3%、フランス11.1%、ドイツ10.3%やOECD平均9%をも下回り、30カ国中22位と下位でした。1人あたりの医療費も米国6401jはもちろん、OECD平均2759jにも達しない2350jで19位でした。
 医療費の公的支出割合は、公的保険が機能していない米国などを除いて平均72.5%、日本は81.7%ですから、1人あたりの公的費用支出OECD平均約2000j、日本は約1920jとなります。以上のように先進国の中で日本の医療費は低いことが明らかにされました。
 一方、医療の質を反映する平均余命は、スイス、スウェーデンなどの80.5歳を上回り日本は82歳で第1位、同じく出生1000人当たりの乳児死亡数も2.8人とOECD平均5.4人のおおよそ半分で最も優れていました。
 このように質の高い医療が日本では低額でまかなわれてきましたが、現在進行中の更なる医療費削減政策により、これからは医療の質を維持することが困難になると懸念されています。(相楽医師会 小堤医院 小堤國廣)

(京都新聞 2008年3月19日)

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日本の医療費かかりすぎ??A

 日本の医療費が安いことは米国の保険会社AIUの調査でも明らかです。世界22都市の虫垂炎治療費はニューヨーク約244万円、ロンドン114万円、ソウル51万円、北京45万円、日本の38万円より低いのはホーチミン市33万円など6都市だけでした。
 ところで、医療費は年々増えて行きこのままでは国が滅びてしまう、と言うのを医療費亡国論といいます。これは厚生労働省の予測計算に基づいています。ところが1995年当時の厚生省予測は2000年に38兆円でしたが実際は30.4兆円で約8兆円ずれ、04年50兆円が実際は32.1兆円と約18兆円も異なり、あてになりません。
 この食い違いは、約60年前にGHQに解体された内務省の時代からの「長瀬式」という古くて単純な計算式を用いて厚生労働省が予測計算しているため、とされています。予測があまりにも不正確なので05年に見直しが行われました。それまでに2010年68兆円と言う予測を41兆円に、2025年141兆円の予測を69兆円に下方修正しましたが、これも怪しい話とされています。
 このように、戦時中の大本営発表のような現実離れした不正確な予測をそのまま流し、今でも低い医療費を更に抑えて、OECDばかりでなく世界保健機構(WHO)も世界一と評価した質の高い日本の医療体制を壊すのは国民にとって大きな損失です。(相楽医師会 小堤医院 小堤國廣)

(京都新聞 2008年3月26日)

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特定健診・保健指導とは

 本年度より老人保健法が高齢者医療確保法に改正されるのに伴い、今まで市町村で実施されていた基本検診が廃止になり、保険者が実施する特定健診・保健指導が始まります。
 特定とは何を意味するのかというと、心疾患や脳卒中などにつながるメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に特化した健診という意味で、換言すればメタボ健診ということになります。今までの基本健診が生活習慣病などを早期に発見することを主眼としていたのに対して、特定健診・保健指導ではメタボリックシンドロームの可能性のある方を見つけ出し、行動変容のための保健指導を行い、生活習慣病の発症を予防することを主眼としています。
 特定保健指導では、四十歳以上六十五歳以下の方を主な対象としてメタボリックシンドロームの重症度にあわせて一に運動、二に食事、しっかり禁煙、最後に薬という方針で保健指導が行われます。運動、食事、禁煙などの行動を変えていくためには受診者の心の準備状態にあわせてきめ細かく行動目標をたてて、習慣をつけさせていく必要があります。道具としては歩数計、体重計、食事記録表、禁煙補助剤(五月より内服薬も発売された)などが用いられます。
 注意しなければならないことは、保険者が実施する健診となるので、国保の方はこれまで通りなのですが、社保の方で地方在住の方は健診へのアクセスが悪くなる場合が生じるということです。また、メタボリックシンドローム以外の病気についてはチェックができにくくなるという欠点もあるように考えられます。(相楽医師会 小沢医院 小澤勝)

(京都新聞 2008年5月15日)

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◇食後高血糖に注意して◇

 糖尿病の患者さんは増え続けており、予備軍を入れるとわが国では現在約千六百万人で、四十歳以上の六人に一人は糖尿病といわれています。
 糖尿病のコントロールが悪いと動脈硬化が伸展し、脳梗塞、心筋梗塞、網膜症による失明、腎不全、下肢の壊疽、神経障害などの生命を脅かす病気が進行することは良く知られています。
 現在、約三ヶ月間の血糖の平均点であるグリコヘモグロビン(HBAIC)を糖尿病のコントロールの指標とすることが多いのですが、境界型糖尿病や糖尿病の初期段階では空腹時血糖、グリコヘモグロビンが正常でも食後の血糖値のみ高いことがあります。
 日本人はもともと遺伝的に血糖を下げるホルモンであるインスリンの分泌が弱いうえに、欧米型の食生活への変化によりインスリンの効きも悪くなり、食後高血糖を認めやすくなっています。
 最近の研究では空腹時血糖、グリコヘモグロビンが正常範囲内でも、食後の高血糖があれば心筋梗塞、脳梗塞の発症が増加するといわれています。
 ということは、初期のこのような段階できちんとしたコントロールを行わないと動脈硬化の伸展を予防できないということです。
 なかなか調べにくいのですが、食事開始後一時間から二時間の血糖を測定してみれば食後高血糖の有無をみることができます。
 健診などで糖尿病といわれたことがなくても、血糖値の上がりやすい、身内に糖尿病の人がいる方、肥満のある方、運動不足の方は一度食後の血糖値を調べてみてはどうでしょうか。 (相楽医師会 松森内科医院 松森篤史)

(京都新聞 2008年7月17日)

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◇歯磨きなど日常生活で予防を◇

 のどの奧は肺に行く気管と、食道に分かれています。食べ物がのどの奧に進むと脳に信号が伝わり、脳から指令(嚥下反射)で気管の入り口がふさがるため食べ物は食道に入ります。この嚥下反射と呼ばれる働きは、意識して行われていることではありません。しかし、高齢者では、この信号や指令がうまく伝わらなくなります。液体や固体を飲み込む時に謝って気管に入ることを誤嚥と呼びます。
 咽・喉頭部の麻痺をきたす疾患や術後に嚥下反射機能の障害が起こると、誤嚥を生じます。多くは老化と脳卒中後遺症で、特に脳梗塞後の人は、飲み込みや咳がうまくできなくなっているので要注意です。また、誤嚥が起こるのは食事中だけとはかぎらず、胃液が食道を逆流して気管に入ったり、睡眠中に唾液を誤嚥したりすることもあります。食事中の誤嚥はむせるので気がつきますが、眠っている間は気づきません。誤嚥性肺炎の多くは睡眠時の誤嚥によるといわれています。寝たきりの人では唾液や食べ物の誤嚥や胃液の逆流が起こりやすくなります。また、虫歯や歯周病がある場合は、口内細菌が増加しているため誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。
 従って、これを予防することが必要です。歯磨きや入れ歯の手入れを十分に行い、舌苔は専用の器具で落とす。虫歯や歯周病はきちんと治療する。睡眠中に胃液が逆流しないように、上半身を十五〜二十度ぐらい起こして寝る。ベッドで食事を取らなくてはいけない人は、少し起き上がって姿勢で食べるようにする。パサパサした食べ物は軟らかく煮込んだり、スープなど液体のものはとろみをつけるなどの日常生活での工夫により、誤嚥性肺炎を防ぐことが可能です。(相楽医師会 松尾クリニック 松尾尚樹)

(京都新聞 2008年9月18日)

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◇足底板 足や膝の痛み、指の変形に◇

 足底板はインソール、足底装具、靴の中敷など様々な呼び方で使われています。通常は靴の中に敷いて使用しますが、室内用に靴下の上に履くタイプもあります。足底板により得られる効果は様々ですが、一般に歩行時に起こる足の痛みを解消し、快適な歩行を可能にするという目的で整形外科の医療現場でよく使われます。荷重移動や歩容状態を改善することにより膝(ひざ)や腰の負担を軽くする効果もあります。また、負担のかかっている足の痛み(胼胝(へんち)、タコ等)や偏平(へんぺい)足・外反母趾(ぼし)といったアーチの障害にも効果があります。痛みの解消以外にも、多くのスポーツ選手が障害の予防として使用するなど、足底板は多くの場面で利用されています。
人間は二足歩行をする生き物です。歩くとき地面と接している部分は足の裏、つまり足底面だけとなります。足底板は地面と足底面との間に働きかけることで足の動きを調節し、より効率よく足を機能させることで滑らかな歩行運動を可能にします。無理のない歩行は膝や股(こ)関節、腰、さらには体全体の負担の解消に繋がることでしょう。足底板は単純に足の形状に沿わせたり、クッション性を高めたりするといったことではなく、医師と義肢装具士がひとりひとり異なる足の形や歩き方などを医学的な立場から分析し、症状に合わせてそれらを評価することで、その人に最も適した形状や素材を選択して製作します。具体的にどういう人に対して作るといった明確な区別はありませんが、足や膝の痛み、指の変形など足に対してお悩みの方は一度お近くの整形外科に相談してみてはいかがでしょうか。(相楽医師会 杉本整形外科医院  杉本茂之)

(京都新聞 2008年11月20日)

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◇ストレッチで捻挫予防◇

 よく足を捻ってしまう。そんな経験はありますか?足を捻ってしまうのは運が悪いからではなく、足首の反り返りが悪くなっているからです。和式便所に座るスタイルを踵を浮かさずにできますか?よく捻挫する方は多分苦手だと思います。足首は膝を曲げるとよく反り返りますが、膝が伸びた姿勢では反り返りにくいものです。でも太ももの裏やふくらはぎの筋肉の柔らかい方は多少膝が伸びていても足首が反り返ります。足首が柔らかければ急な方向転換などでも足首を捻らずにすみます。捻挫の予防は足首の反り返る柔軟性をつけることなのです。
 ただし、単にアキレス腱を伸ばすだけでなく、太ももの裏とふくらはぎの筋肉を十分ストレッチすることです。腱自体は決して柔らかくはなりませんが、腱につながる筋肉はストレッチで十分柔らかくすることができるからです。
 成長期に膝が痛くなるお子さんはいませんか?それは成長痛ですので我慢してください。これはウソです。成長痛は理由があって起る関節症状なのです。成長痛のあるお子さんをよく見てください。体が硬く、姿勢も悪いと思います。これは太ももの裏の筋肉が硬く短縮していて、骨盤が後ろ引っ張られているのです。そのため骨盤の前側から膝のお皿の骨につながる筋肉が強く引っ張られ、その付け根が痛くなるのです。
 成長痛はストレッチ不足による太ももの裏の筋肉が骨盤の後傾を引き起こし、その結果、太ももの前の筋肉が引っ張るため、筋の付着部である膝のお皿周囲が痛くなることなのです。成長痛の予防は姿勢正しくできるように太ももの裏の筋肉をストレッチすることです。(相楽医師会 山本整形外科 山本浩二)

(京都新聞 2009年1月22日)

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◇女性の身体、今・昔◇

 中国最古の医学書「黄帝内経素問」の上古天真論には女性の成長発達について7歳毎の周期で以下のように記されています。
 7歳 腎気が活発になり永久歯が生え髪が伸びる
 14歳 生殖機能が備わる
 21歳 腎気が全身を巡り、知歯が生えて歯がそろう
 28歳 身体が最も充実した状態
 35歳 腎気が衰え始め、顔に皺が生じ髪が抜け始める
 42歳 皺が増え、白髪が出てくる
 49歳 閉経し、生殖能力がなくなる
 感想はいかがでしょうか? 今も昔も女性の身体の周期はほとんど変化がないのに驚かされます。
 寿命の短かった昔と違い、日本女性の平均寿命が85歳を超えた現代において、女性は女性ホルモンが欠乏した状態で30年以上生きていかなくてはいけません。月経周期の微妙な変化に始まってなんとなく疲れやすい、ぐっすり眠れない、イライラする、気分が落ち込むなどの不調がおこり、体がほてる、急に汗をたくさんかく、寝汗がひどいなどの症状がみられたら女性ホルモンのエストロゲンが相当減ってきたと考えていいでしょう。女性ホルモンの周期的な働きによって守られてきた血管や骨もこのころを境に急激に老化していくことが研究によって明らかになっています。
 最近では性差医療という概念が提唱され、女性と男性とでいろいろな病気や生体機能のシステムに違いがあることが研究されています。昔の研究に負けないように、皆さんと一緒に女性の身体とライフサイクルの再構築を検討していきたいものです。(相楽医師会 華クリニック  朴 京林)

(京都新聞 2009年3月19日)

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◇学校検尿で守ろう、こどもの健康◇

 腎臓は、体の細胞が働くのに必要な体液の組成や酸性・アルカリ性のバランスなどを保つ重要な内蔵です。からだが元気なのは、細胞が働きやすい環境を腎臓が一定に維持しているからです。
 腎臓の働き(腎機能)には大きな予備力があるため、病気で腎機能が低下し始めてもしばらくは症状が乏しいことがあります。従って腎臓病は気づかれないまま進行し、発見時にはかなり進行していることがあります。腎機能が相当低下した状態を腎不全と呼びますが、腎不全になってしまうと根本的な治療はありません。
 最近、将来腎機能が悪化する危険性のある状態を慢性腎臓病(CKD)と呼ぶようになりました。腎不全予備軍であるCKDを早期発見し、腎不全への進展阻止が重要であると認識されてきました。
 春は子供の学校検尿が行なわれます。尿異常を確認すれば、小児CKDや糖尿病を早期発見でき、適切な経過観察や治療に結びつけることができます。くれぐれも検査を受けなかったり、尿異常の通知を放置しないでください。
 尿異常の中で、蛋白尿は将来の腎機能悪化の予測因子として特に重要です。一方、小児では起立性蛋白尿という病的意義の少ない蛋白尿をしばしば認めます。これは主に起立など体位を変えることで陽性となるもので治療の対象にはなりませんが、病気の発見を妨げる可能性があり無視できません。起立性蛋白尿の影響を除き正しい結果を得るため必ず決められた採尿手順を守り、早朝安静時の尿を提出しましょう。
 また女性では生理の影響で血尿を認める場合があります。検尿の予備日を設け、提出日をずらせば正しい結果が得られます。(相楽医師会 いしわりこどもクリニック  石割康平)

(京都新聞 2009年5月21日)

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めまいは耳から?

 めまいの原因は多彩ですが、脳の病気が心配で、総合病院を受診されても、「耳鼻科を受診して下さい」と言われることがあります。耳鼻科で扱うめまいはどのようなものか?耳の中には三半規管など、頭のバランスをとっている器官があります。この部分が調子悪くなりますと、目がまわる、体を動かしたり振り向いた時のふらつき、地に足がついていない様なふわふわ感が出ますが、耳が関係するめまいは体や頭が動いたときにめまいが起こるのが特徴的です。
 三半規管などがある耳への血液の循環が悪くなりますと、耳の中の圧力が上がり(浮腫(むく)み)、耳のめまいが起こりやすくなります。特に、春、梅雨、台風の時期など大気の圧力(気圧)が低くなると、多くなる傾向にあります。耳の中の圧力が上る(浮腫む)ことによって、耳鳴り、聞こえにくい、耳に膜が張ったような塞(ふさ)がった感じを伴うことがあります。お天気の変化の他に、慢性的な疲れ、ストレス、睡眠不足、首・肩のこりなど個人的な要因でも耳への血液の循環が悪くなりやすくなります。日々多忙な方に'耳のめまい'が多くみられますが、逆に、ストレスなど全く感じておらず生活が単調になってしまっている方にも見られます。退職に伴い生活が変化して、めまいが起りやすくなったという例もあります。人にとって適度な緊張は必要なのでしょうか?
他に、頭を動かす体操をすることで良くなる'耳のめまい'もありますが、これはきちんとした診断がなされていなければ、効果は期待できません。くり返すめまいでお悩みの方は一度、お近くの耳鼻科でご相談下さい。 (相楽医師会 鈴木耳鼻咽喉科 鈴木慎二)

(京都新聞 2009年7月16日)

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緑内障の近頃

 古典的には、緑内障は『あおぞこひ』と言われており、ほんの数日で重篤な視機能障害におちいる狭隅角緑内障を中心とした発作、あるいはそれに準ずるような大変な高眼圧状態を主なものとして考えられておりました。やがて、罹(り)患者数の多さから、さほど眼圧が高くならないにもかかわらず緑内障性の視野異常をきたす開放隅角緑内障に治療の中心が移ってきました。
 そして、近来では正常の眼圧(21mmHg未満)でも発症する『正常眼圧緑内障』あるいは『低眼圧性緑内障』の存在に着目されるようになりました。
 この辺りから緑内障は高眼圧ありきと言う考え方が見直され、現在では緑内障性の視神経異常と視野異常を来す疾患という考え方になって参りました。そして、視神経異常を引き起こす危険因子の一つに加齢があげられるようになりました。高眼圧はあくまでもそれを後押しするものだと言うことです。
 とはいうものの緑内障初期は、多少眼圧が高くてもなかなか視野変化が表れませんが、中期を過ぎると多少の高眼圧でも緑内障性視神経萎縮(いしゅく)が加速する傾向があります。したがって、現在のところ緑内障の危険因子からの回避は眼圧を下げるのみと考えられます。
 『あおぞこひ』だけを緑内障と考えていた時代と違い、緑内障の診断にはさらに注意深さが要求されることになりました。眼科医に何らかの緑内障の危険因子があると指摘を受けたことがあれば、ほんの少しでもよいから緑内障という病気を意識してください。
(相楽医師会 兎本眼科 兎本明夫)

(京都新聞 2009年10月15日)

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C型肝炎について

 最近、C型肝炎のコマーシャルをご覧になられた方も多いのではないでしょうか? 今回は、C型肝炎について簡単に紹介したいと思います。
 C型肝炎とは肝炎の一つのタイプで、C型肝炎ウイルスに感染することにより発症します。その感染経路は血液がほとんどで、夫婦間の性交渉や出産による母子感染は数%程度といわれています。
 また、自覚症状が無いため感染に気づかずに、10〜30年で肝硬変・肝癌(がん)へと進行し、それによる死亡者数は3万人を超え、そのうちの80%近い方はC型肝炎の方です。現在、C型肝炎ウイルスの感染者は、気づいておられない方も含めると約200万人ともいわれ、その方々を対象に2008年より医療費助成金制度が開始、11月30日には肝炎対策基本法が成立しました。この法律により、それまでは薬害肝炎の方が対象でしたが、B型肝炎を含んだ肝炎患者さんの感染者全員への支援体制がようやく整いました。
 そこでC型肝炎の治療ですが、その前にウイルスのタイプと量を知る必要があります。ウイルスには遺伝子型として、1a・1b、2a・2bのタイプに分けられます。日本人では1b型が約70%と多く、2a型は約20%、2b型は約10%で、1a型はほとんどありません。残念ながら、日本人に一番多い1b型で特にウイルス量が多いタイプ(いわゆる治りにくいタイプ)の方に対しての治療成績が芳しくありませんでしたが、今回の新しいタイプのインターフェロンの登場により、治療成績が10%から60%にまで上昇しました。他のタイプ(治りやすいタイプ)では90%と高い成績を誇っており、行政の支援もあり、治療を受ける環境が整ってまいりました。もちろん、個々の患者さんにおいて、肝臓の状態、性差・年齢など様々の要因がありますので、主治医の先生と十分に相談されてから治療を受けるようにしてください。
(相楽医師会 岸田内科医院 岸田秀樹)

(京都新聞 2009年12月17日)

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